1950年3月21日公開。
太平洋戦争真っただ中における男女を描いたメロドラマ。
第24回キネマ旬報ベスト・テン 第1位。
第5回毎日映画コンクール 日本映画大賞。
第1回ブルーリボン賞 作品賞、監督賞。
第4回日本映画技術賞(中尾駿一郎、平田光治)。
脚本:水木洋子、八住利雄
監督:今井正
出演者:
久我美子 、 岡田英次 、 滝沢修 、 河野秋武 、 風見章子 、 杉村春子 |
あらすじ:
昭和十八年。
日本に住むすべての人々は、狂気に似た戦争のるつぼの中へ巻き込まれた。
三郎(岡田英次)と螢子(久我美子)が、はじめて逢ったのは空襲警報の鳴り渡る街の地下鉄のホームであった。
もみ合う人、人。
その中で押し倒された若い二人の指がふと触れあった。
盲目にされている戦争の最中で、人間としての青春の、愛情の喜びを得たいと願う、それは美しい心のふれ合いだった。
燃え上がる愛情は日に増した。
だが、時は一刻の猶予もなく、戦争の遂行のために進んでいた。
三郎は母のない冷厳な法務官の息子である。
兄・二郎(河野秋武)は、かつて夢多い青年であった。
だが今は陸軍中尉の軍服がぴったりと身についた青年将校で、三郎にとっては悲しい存在であった。
長兄の一郎は戦争で死に、その妻の正子(風見章子)は、三郎の家ではあわれな奴隷であった。
父も兄・二郎もそれはあたり前だと思っていた。
この家庭の雰囲気が三郎にはたまらなかった。それに反して、螢子の家庭は、母(杉村春子)と二人、螢子の先生のアトリエに留守番として住んでおり、螢子は小さな画家の卵として、貧しい生活のために、似顔を画いていた。
母は工場に勤め、この母と子はあふれるほどの愛情に満ちていた。
三郎は明るい螢子と逢っているときだけが、幸福を身に感じるときだった。
だが二人は、目に見えない戦の大きな黒い手の中で、やはり身動きできない二人だったのだ。
三郎の友人は次々と召集された。
二人は追われる様な日々を過ごした。
そしてついに三郎に赤紙が来た。
あと二日、螢子の描いたつたない三郎の肖像画が、ただ一つの思い出として残る運命の日がくる。
最後に逢う日、三郎の姉・正子は防空訓練で倒れ、亡き一郎の子を流産した。
三郎は螢子との約束の場所へ行けなかった。
その頃、その場所は爆弾によって吹き飛ばされ、螢子の若い命はあっという間に散ってしまった。
三郎の征く日は更に一日早まった。
螢子の見送りもなく、征く三郎。
人間としての限りない平和と希望を求めた三郎は、軍用列車で運ばれる。
--昭和二十年。
今は亡き三郎の肖像画は黒い布でつつまれて、戦いの終わりが告げられていた。
コメント:
ロマン・ロランの小説「ピエールとリュイス」をもとに水木洋子が書きあげた美しいドラマを今井正監督が格調高く描いている。
戦争によって引き裂かれていく若い男女の悲劇を謳いあげることで戦争の無惨さを浮き彫りにしており、戦争映画の名作でもある。
古今の有名な恋愛物語のほとんどはその背景になんらかの障害があり、それを乗り越えようとするところに熱い物語が生まれてくる。
障害が大きければ大きいほど熱情も大きくなり、大恋愛劇が生まれる。
なかでも戦争という波は最大の障害といえる。
このことは戦争を背景にした物語に多くの名作があることでも明らかである。
「戦争と平和」、「武器よさらば」、「誰がために鐘は鳴る」、「ドクトル・ジバゴ」とたちどころに何本もの名作を並べることができる。
明日さえ知れぬ暗い時代であるからこそ自らの生命を燃え立たせようと男と女は愛し合う。
そしてその一瞬の輝きにすべてをかけようとする。
残された時間がわずかであることを感じているからこそ、その時間は濃密なものとなり、生気に満ちたものになる。
そんな絶望的な状況のなかでもわずかな可能性を信じながら愛し合う。
だからこそ愛し合わずにはいられないのである。
しかしそんなわずかな願いさえも断ち切ってしまうような悲劇的な結末が訪れる。
「また逢う日まで」においても、若い男女の純愛は結ばれることなく、ふたりの死という形で終わってしまう。
そしてこの無情な悲劇性がわれわれに鮮烈な感動を呼び起こす。
同時にこうした不条理な結末を生み出した戦争というものに強い憤りを呼び起こすのだ。
社会派映画監督の巨匠である今井正の戦後における貴重なヒット作品である。
映画の中盤で描かれる、雪降る中のガラス越しのキスシーンが一世風靡した映画。
これが、主人公二人にとってのファーストキスだった。
このあとガラスなしの、ほんとの熱情的なキスシーンが何回かある。
公開当時はまだ昭和25年だったのだが、なかなかやってくれている。
当時19才の久我美子が美しい。
終盤、杉村春子の母に告白するシーンが素晴らしい。
岡田英次は当時、デビュー翌年の29才で、大学生役は一寸きびしいが熱演している。
この映画は、すれ違いがもたらす悲劇を描いたエンドは見応えがある。
第24回キネマ旬報ベスト・テン 第1位となった本作。
戦後5年当時に封切られて、全国の映画館で大泣きに泣いていた観客が多数いたという。
最後のエピローグは、昭和20年秋。
岡田のナレーションが天国より舞い降りた彼の魂のごとく感じさせる。
カメラの動き、開くドアが絶妙の演出になっている。